【ワインクロージャーまとめ】ワインに封する「栓」についてのお話。コルク?スクリュー?

こんばんは。ソムリエのサカナです。

本日はワインの【クロージャー】、すなわち瓶口の栓の種類についてまとめていきます。

ワインにする「栓」によって、ワインの瓶内熟成の仕方が変わってきます。

ワインは強めの酸を持つ液体であるため酸に耐性のある栓が必要であることと、瓶内で微量な酸素を取り込むことで、ゆっくりと酸化熟成し、ワインの香気成分に複雑さを与え、タンニンはまろやかになっていきます。そして疎水性による腐敗耐性と弾力性による高い密封性も不可欠です。

天然コルクの素材は、その点においてうってつけの素材でしたが、ブショネ、コルクテイントと呼ばれるカビ臭汚染が重大な問題点でもありました。

ブショネ問題を解決するべく、現代の技術革新によって様々なコルクやワインクロージャーが生み出されています。

天然コルク

出典:コルクに関する知識や資料はこちら| 老舗国産コルクメーカー 永柳工業株式会社 (nagayanagi.co.jp)

コルクとは、ブナ科コナラ属コルク樫から剥いだ樹皮のことです。コルクは地中海沿岸に成育するコルク樫の樹皮であり、その大半はポルトガルで収穫されています。全世界の生産量の約52%(約31万トン)がポルトガル産。その他スペイン (29.5%)、イタリア (5.5%)、アルジェリア (5.5%)、モロッコ (3.7%)、チュニジア (2.5%)、フランス (1.1%)などで生産。(by Wikipedia)

コルク樫が成木となる樹齢20年から寿命となる樹齢200~300年までの間、伐採することなく9年周期で再生されるコルク樹皮を収穫します。

コルクはコルク樫の木を伐採せずに、樹皮を剥いで使うため、サスティナビリティ性のある環境にやさしい素材であると言えます。木を切らないので、コルク樫の森はもちろん葉をつけ、光合成をおこない、大気中の二酸化炭素を吸収し、地球温暖化の抑制に貢献しています。

成木となり初めて収穫するコルクはバージンコルクと表されており、2度目の収穫がセカンドコルク、3度目以降に収穫されるコルクは良質なコルクとしてアマディアコルクと表されます。バージンコルクとセカンドコルクは樹皮の凹凸が激しく硬いため、ワイン栓として使用できず、粉砕して壁材や床材等の建材として利用されています。
3度目以降に収穫されたアマディアコルクは最も需要の高いワイン栓を打ち抜き、残りの屑も廃棄することなく副産物の生産に用いられています。

天然コルクのブショネ問題

ブショネ(bouchoneé)とは、汚染されたコルクによりボトル内のワインの品質が劣化する現象のこと。

ブショネの主な原因は、天然コルクに潜んだ細菌と製造工程上、消毒に用いられる塩素によって、TCA(トリクロロアニソール)という物質が発生することです。またワイナリー内の設備が汚染されている場合もあり、TCAやTBA(トリブロモアニソール)によってカビ臭が発生します。

2,4,6-TCAの嗅覚閾値は10ppt(1pptは一兆分の一)と、ごく低濃度でも匂いを感じ、強いカビ臭や濡れた段ボールのようなべたっとした不快な臭いがします。

この臭いによってワイン自体も汚染されてしまい、ワイン本来の美味しさや香りを失ってしまいます。またTCAは極微量で嗅覚に対するマスキング効果があることも分かっており、TCAを嗅いでしまうとその他の匂いを弱めてしまいます。

どれだけ偉大な美味しいワインであっても、ブショネですべては台無しになってしまうほど恐ろしいもの。かつては、天然コルクで打栓されたワインの約3~5%くらいはブショネと言われていたくらい割と存在感がありました。現在は技術の発展とともに減少しています。

NDtech

出典:Amorim(アモリム)、コルクテイント(ブショネ)ゼロを保証したコルクを発売 (worldfinewines.com)

ポルトガルにある世界最大のワインのコルク栓製造会社Amorim(アモリム)は、コルクテイント(ブショネ)の発生ゼロを保証したナチュラルコルク栓の販売を2016年に開始した。

製品はNDtechと名付けられ、1,000万ユーロの開発費用を投じて開発。ひとつひとつのコルク栓は最新技術でスキャンされ、コルクテイントの原因物質であるTCAを、人間が検知できる限界値とされる0.5 ナノグラム/L以下の数値であることを保証。

同社は、長年にわたってコルクのTCA対策と研究を進めてきたが、最新のガスクロマトグラフィの技術で、わずか1秒で1個のコルクの品質をスキャンする技術を開発したと発表した。

従来のガスクロマトグラフィの技術では、コルク1個の品質検査に14分もかかり、実用性がなかったが、この技術革新で検査時間が劇的に短縮され、最上品について商業ベースで品質を確保したコルクを出荷することが可能となったとする。

また2018年Amorimの社長Antonio Amorim氏は、2020年までに自社で生産するコルク栓のすべてをTCAフリーにすると言及した。

2016年にNDTechを発売しているが、このコルク栓は高価で、多くのワイナリーが使えるというわけではなかった。そのため同社は研究開発費を投じ、すべてのアモリムの生産するコルク栓を新しい技術でTCAフリーにすることとなった。

新技術は、1個1個のコルク栓をスキャンしてTCA汚染のある栓をはじくのではなく、初めからTCAが存在しないようにする技術だという。過去12か月の検証では結果は非常に良好で、2018年7月末には2種類のプロトタイプがつくられる。

合成コルク

現代の技術革新によって、ブショネのリスクをなくし、さらに天然コルクの持つメリット(酸素透過性、瓶口の密封性、酸や経年劣化への耐性力、抜栓時に必要な労力、レストランでコルクを抜栓する儀式的なパフォーマンスを演出できるなど)はより良い形で残すよう研究が進められています。

Nomacorc(ノマコルク)

出典:ノマコルク – Bing images

天然コルクに代わるクオリティの高い樹脂製(プラスチック)合成コルクの代表格ノマコルクです。先日のワイン&グルメジャパンに伺ったとき岩の原葡萄園さんも輸入天然コルクの日本に割り当てられる品質がとっても低いこともあって、ノマコルクにほぼほぼ切り替えたとおっしゃってましたね。

芯部にはクッション性のある天然コルクに似た均一なセル構造を持つ樹脂。その周りに天然コルク風のシリコン製外皮。外観もコルクオープナーによる抜栓感も天然コルクとほぼ変わりなく、密封性は天然コルクよりも安定しています。

さらに、圧搾コルクにあるようなコルク粒の屑がワインの液内に落ちて汚すこともなく、もちろんTCA汚染もない安定感・安心感のある画期的な商品と言えます。

DIAM(ディアム)

天然コルク素材を用いた圧搾コルクの中で絶大な信頼を誇るのがDIAMコルク。

コルク樹皮を細かな粒状に粉砕し、圧力をかけて粒を押し固めて作るワイン用コルク栓で、天然コルクが(樹皮をそのままくり抜くため)自然の産物であるがゆえに起こる材料の品質のばらつきにも左右されることがなく、品質が安定しています。

また材料の供給が安定しており、価格も天然のワイン用コルク栓と比べて安価。

そしてもちろん製造工程でのTCAやTBAなどを完全に除去して圧搾コルクを製造するため、ブショネのリスクはありません。

DIAM2, DIAM3, DIAM5, DIAM10, DIAM30など後ろにくっついている数字は保存できる期間の長さを表しており、リコルク(ワインのコルクを打栓しなおすこと)せずに最長30年も耐用年数があるのも驚きです。

ArdeaSeal(アルデアシール)

出典:Ardeaseal technology: Customization

イタリアのアルデアシール社の開発した射出タイプの樹脂(プラスチック)合成コルクです。

The body of the ORGANIC stopper by Ardea Seal is made from bioplastic, derived from biomass sources such as corn starch, sugar cane, sugar beet, cellulose and vegetable oils.

Organic – Materials (ardeaseal.com)

合成コルクのボディに用いられる樹脂はとうもろこしやサトウキビ、甜菜、セルロース、植物油脂などのバイオマス源由来のバイオプラスチックで造られており、従来のテクノポリマーと異なり石油や天然ガス由来ではありません。

TCAフリーなのは当然のことなのですが、天然コルクの酸素透過性が経年劣化や品質によってばらつきがあるのに対して、アルデアシールは安定・均一な酸素供給にも言及しています。

圧搾コルクや天然コルクのようにぼろぼろと崩れてしまうこともありません。ただし大変高価なようでブルゴーニュなどの高級ワインにしかなかなか使われいないようです。

スクリューキャップ

ソムリエがコルクを抜く儀式的な神秘性は失われてしまいますが、21世紀初めから注目を集めているスクリューキャップは、オセアニア(オーストラリア・ニュージーランド)を中心に急速に普及しています。

グレイスワインの三澤さんがイギリスへの輸出はスクリューキャップでないと受け入れてもらえないともおっしゃってましたね。かの有名なジャンシス・ロビンソンMW(マスター・オブ・ワイン)は、完全なるスクリューキャップ党だとか。

オーストラリアのクレア・ヴァレーで最高品質のリースリングを手掛けるグロセットのジョフリー・グロセットは2000年にクレア・ヴァレーの生産者たちとともに、プレミアム・ワインをスクリュー・キャップで瓶詰めし、今日のスクリュー・キャップ栓普及の口火を切りました。

その後も、スクリュー・キャップ栓の研究を目的とした基金を設立するなど、さらなる晶質の向上に向け、常に革新と挑戦を続けています。

スクリューキャップで特筆すべきなのは、圧倒的な密閉性。

天然コルクの1/5〜1/10程度、酸素透過は明らかにボトルに蓋をするという機能では圧倒的です。もちろんブショネのリスクもほぼありません。

ただし生産者が懸念しているのは、密閉度の高さによる酸素供給がほとんどないため、酸化還元反応の「還元作用」に傾き、「還元臭」が発生することです。

還元臭は、ワイン中の澱が酸素を吸収することによって還元状態に傾いたり、酵母に窒素供給が足りずにストレスが生じることで、硫化水素を発生させ、さらに硫化水素からメルカプタン類が生成されます。

硫化水素は、ゆで卵、硫黄の香り。メルカプタン類は、タマネギ、ゆで卵、硫黄、たくあんの香りなどを生じて、ワインのアロマを阻害するオフフレーバーになってしまいます。

ただしスクリューキャップの密閉性はフレッシュなアロマを楽しむ比較的早めに飲むタイプのワインにはうってつけで、ソムリエナイフなどの特別なオープナーも要らないため利便性も高いです。

さらには還元状態を計算した上で、瓶詰め時に入れる亜硫酸量を調整しさえすれば、過度な還元状態にならず、長期の瓶内保存が可能となります。酸素の透過性がほとんどない分、酸化熟成は非常に遅く、逆に言えば瓶詰め時の状態を長期にわたって保存できる優れものと言えます。酸化熟成をあまり必要としないグラン・ヴァン(高級ワイン)にも徐々に用いられています。

ガラス栓

出典:Homepage — Vinolok

近年になって登場した新しい栓。見た目が美しく、簡単に手で再栓できるのも魅力。ガラスなのでワインの味わいに影響を与えないことも大きな特徴です。

ガラス栓で代表的なのはVINOLOK(ヴィノロック)で、2004年から市販開始、現在ではドイツ・オーストリアを中心に世界中で採用されています。サカナはオーストラリアのトルブレックのワインで見た記憶がありますね。2011年からチェコのPRECIOSA社が事業を引き継いでいるようです。

構造はガラス栓の瓶口にあたる部分に樹脂製のシールがはめられ、ワインの密封性を保持しています。フレッシュさをキープしたい早飲みワインに、その美しいデザイン性も相まって採用されているように感じます。ガラスの素材自体はワインに対して不干渉なので、品質を左右する要素も、もちろんTCA汚染もありません。

それではまた次回をお楽しみに~🐟🍷


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