【サスティナブルなワイン生産】を垣間見る。知ってほしいワイン生産者の努力。

【サスティナブルなワイン生産】を垣間見る。知ってほしいワイン生産者の努力。
ソムリエ サカナ

こんばんは。ソムリエのサカナです。

昨今話題になっている、地球温暖化

ワインを生産するもとになるのは、農産物である「葡萄🍇」ですが、自然の産物ですから、自然環境の変化の影響をもろに受けるもののひとつです。

またワイン用葡萄の栽培およびワイン醸造は、自然の資源と密接に関わっていることから、地球温暖化防止に向けた様々な取り組みを社会全体から求められるような時代になりました。

そこから「サスティナブル」、「自然環境に配慮したワイン生産」という点が、付加価値的にも良いものとなっていることは見逃せない事実であり、実際にワイン生産者は「自然と直接的に関わり、向き合う者」として涙ぐましい努力をしております。

今回は、その一部をご紹介できればと思っています。

地球温暖化とは?

まずは地球温暖化について、サラッとおさらいしておきましょう。

地球温暖化とは、温室効果ガスが増え過ぎ、宇宙に逃げようとしていた熱が地表にたまりすぎてしまったために、気温が上昇したり、地球全体の気候が変化したりします。

地球という惑星は、太陽からの熱が海や陸に届くことによって暖められています。そして、暖められた地球からも熱が宇宙に放出されています。その放出される熱の一部を吸収し、地表から熱が逃げすぎないようにしているのが、「温室効果ガス」です。大気中にある二酸化炭素(CO2)やメタン、フロンなどのことです。

これらの温室効果ガスがまったく無いと、太陽の熱が全部宇宙に逃げてしまうため、地球の平均気温は氷点下19度まで下がってしまうと考えられています。私たち人間を含めた、様々な生物が生きていくためには、必要不可欠なガスなのです。

しかし、温室効果ガスが増え過ぎると、宇宙に逃げるはずの熱が放出されず、地表にたまりすぎてしまいます。そのため、気温が上昇したり、地球全体の気候が変化したりします。これが、地球温暖化です。

二酸化炭素の排出が急激に増え始めたのは、18世紀の産業革命以降のこと。以来、人間は石炭や石油などの化石燃料を燃やして、たくさんのエネルギーを得てきました。その結果、大気中に排出される二酸化炭素が急速に増加。これが現在、地球温暖化を引き起こす、主な原因と考えられています。

地球温暖化とは、単に地球全体で徐々に気温が上がっていく、というだけ変化ではありません。地域ごとの差も大きく、極地方や標高の高い地域ほど、気温の上昇率は高くなります。また異常気象の発生する頻度が高まったり、嵐が強大化したりする恐れもあります。もちろん異常気象は今の気候でも発生しますが、地域によっては今までに経験したことのないような異常気象が発生する可能性があります。また伝染病を媒介する蚊などが、今までに発生したことのない地域にも生息域を広げる恐れがあり、それぞれの地域が、経験したことのない新しいリスクに備える必要があるのです。温暖化の恐ろしさは、ただ気温が上がる、ということではないのです。

[出典:WWFジャパン(地球温暖化とは?温暖化の原因と仕組みを解説 |WWFジャパン)]

地球温暖化がワイン造りに与える影響

それでは、この地球温暖化が実際ワイン造りに、どのような影響を及ぼし、どのように問題となっているのでしょうか。

熱による葡萄の生育活動への影響

葡萄の成熟のための活動は、日照と気温に大きく影響を受けます。昼夜の寒暖差がエレガントな酸を生み、豊富な日照量がないと葡萄の完熟には至りません。しかしながら、葡萄も生き物ですから、あまりにも高い気温の中では、生命活動自体がストップしてしまいます。おおむね35℃以上になると、葡萄は「休眠」状態となり、成熟は進まなくなるのです。

アルコール度数の上昇

温暖な葡萄栽培地域のワインは、葡萄の糖度が上がりやすく、その分、発酵の過程でアルコール分を多く生産します。ゆえにフルボディな大柄なワインができやすいですが、ワインの味わいは「バランス」が大切であり、ワイン生産者が目指すワイン造りがよりコントロールしにくい状態へとなりかねません。

通常通り完熟させてしまえば、軽くアルコール度数が16度を超えてしまうようなワインが出来てしまうでしょう。酸度と糖度のバランスの見極めや、理想的な収穫タイミングの幅が短くなることも想定できます。ワイン用葡萄の収穫は、クオリティの高い生産者ほど「人による手摘み収穫」です。事前にスケジューリングして、労働力を確保する必要があります。そのような手間暇を考えると、地球温暖化がワイン生産者にかける負荷を増大させていることは、想像に難くありません。

葡萄品種の栽培適地の変化

ワイン用葡萄品種には、自然環境の条件によって「適性」があります。もちろん「シャルドネ」のように、冷涼な気候でも温暖な気候でも栽培され、それぞれ異なるキャラクターが発出し、各々の良さを表現できるような品種もありますが、歴史的なワイン産地においては、何十年もかけてその産地に適した葡萄品種を見極め、大切に育てています。まさに人間の思考錯誤の英知と歴史の重みも含んだ「テロワール」と私は思っておりますが、地球温暖化の気温の上昇によって、その積み重ねた歴史を崩壊させてしまうリスクがあります。

イタリアにおけるシャンパーニュ的な存在である「フランチャコルタ」。2017年にイタリア国内のDOCGとDOCでは使用が禁止されてきたぶどう品種Erbamat(エルバマット)の使用が許可される見通しとなりました。2017年ヴィンテージからは実際に10%以内の使用が認められています。

Erbamatは、ロンバルディア近辺で少なくとも16世紀以前にさかのぼるとされる土着品種で、細々と生き延びてきたが、ワインとしての優秀性が認められず、DOCGとDOCのワインではその使用が禁じられてきた、ほとんど絶滅種だと言われていた葡萄。しかしながら、晩熟でかなり温暖な気候帯でも高い酸度を示し、糖度は上がらないその特性が、地球温暖化において「酸の保持」に有効だとして、許可されました。まさに地球温暖化において、葡萄の適性品種が変化してくる典型例かと思います。

葡萄は健全に育ち、樹齢の高くなった樹からは、若木にはあらわせない表現力を発揮します。そのため「ヴィエイユ・ヴィーニュ」とラベルに表記されるほど、古樹から造られるワインには付加価値がつきます。地球温暖化によって、栽培適性品種の変化のために、素晴らしい葡萄の古樹を伐根して、新しく植え替えなければならない状況下が訪れることがもったいないなと、ワイン好きの私は残念に思ってしまいます。生産者自身の悲しみはそれ以上でしょう。

その他にも、様々な影響が地球温暖化によって、ワイン生産者を悩ませています。昨今では、従来の葡萄栽培のセオリーに捉われず、「北向きの斜面での葡萄栽培」や「キャノピーマネジメント(樹冠管理)」、「カバークロップ」、「収穫時期の工夫」など、美味しいワインを造るために生産者の方々は多くの努力によって乗り越えようとしています。

ワイン産業の地球温暖化に対する取り組み

農業における地球温暖化対策の取り組みは、非常に重要なポジションを占めます。多くの水資源を使用し、自然に直接手を加え、醸造から輸送まで含めれば、多くの温室効果ガス排出量を削減でき、自然環境の保全に繋がります。

ワイン産業全体で、昨今地球温暖化に対する取り組みは、高い感度で取り組まれています。「後世に素晴らしいワイン栽培地を残す」という思いの中、自然環境に配慮したワイン造りが行われていることももちろんのこと、資本力のある大手も積極的にサスティナブルなワイン生産を行っています。

国際的な視点で地球温暖化に取り組んでいるのが、アメリカのジャクソン・ファミリー・ワインズ(JFW)とスペインのファミリア・トーレスがタッグを組んで始めたIWCA(International Wineries for Climate Action)です。ワイン業界における脱炭素を目指すこの活動は現在6か国10ワイナリーが会員となっています。IWCAの会員は、2050年までに「クライメート・ポジティブ(削減量>排出量)」を実現することを目標にしています。

その他にも多くのワイン生産者が環境保全の取り組みを行っています。

節水と水の再利用

ワイン造り自体には、日本酒などのように仕込み水を使うことはありませんが、新世界のワイン産地で過度の乾燥地域には「灌漑」が認められていたり、ワイン醸造設備の洗浄等に多くの水が利用されています。

オーストラリアの老舗「デ・ボルトリ」は、「ゼロウェイストワインァンパニー」を目標に掲げ、積極的なサスティナブルな取り組みを行う企業ですが、水管理の徹底及び多くのブドウ園でのバイオロジック農業への継続的な移行の推進、商品包装と廃棄物管理の慣行の慎重な見直しを実施しています。

水の浄化設備を導入する企業があったり、雨水を貯めて使用する生産者がいたり、人々の営みにおいて最も大切な水資源が環境汚染の原因にならないように、多くのワイン生産者が配慮をしております。

廃棄物の削減

最近耳にする「カーボンフットプリント」は、直訳すると「炭素の足跡」。商品やサービスの原材料の調達から生産、流通を経て最後に廃棄・リサイクルに至るまでのライフサイクル全体を通して排出される温室効果ガスの排出量をCO2に換算したものです。

この観点から、ワイン用「ガラス瓶の軽量化」に取り組み、生産及び輸送にかかる二酸化炭素排出量削減に貢献したり、過剰な包装等をしないようにしたり、ワインの搾りかすを堆肥化して、再利用したりと様々な取り組みが見られます。

再生可能エネルギーの利用

JFWはアメリカで最大規模の太陽光発電システムを所有し、自社のワイン造りに関わるエネルギーの約30%を賄っています。その他、資本力のあるワイナリーにはソーラーパネルを設置し、再生可能エネルギーの積極的な活用がみられます。

ボルドーの格付け2級シャトー・モンローズでも、2007年から7年かけて環境対策を盛り込んだリニューアル工事を行い、醸造棟の屋根に1700枚のソーラーパネルを設置しています。この太陽光エネルギーで、生産用の年間40万キロワットの電力を全てカバーしています。

まとめ

いかかでしたでしょうか。消費者の目には見えにくい、ワイン産業における、環境保全の取り組みの様子を少しでもお伝えできていれば嬉しいです。

かつては、農薬や除草剤の力を過剰に借りて、目の前の生産量の確保だけに走ってしまった時代もワインの歴史にはありました。しかしながら、「これではだめだ!自然環境に配慮し、我が子たちの時代のその先まで続く、素晴らしいワインを造れる環境を我々が守り、後世に伝えるんだ!」という思いで、ワイン造りを行う生産者さんが現在とても多く、いち消費者としてはやはりそのようなワインを買いたい、飲みたいと思ってしまうのは、しょうがないことですよね。

ワインは「人の造りしもの」です。「自然と向き合う人の思いがワインに現れる」。私はその思いも含めて、美味しいワインを味わえたらこれ以上ない喜びへと変わっていくのだと思っています。

それではまた次回をお楽しみに~🐟🍷

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